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仙台地方裁判所 昭和36年(ワ)293号 判決 1964年3月24日

原告 酒井安雄

被告 岩淵幸治

主文

原告及び被告が共有している別紙第一目録の一、記載の土地を同目録の二、の分割方法のとおり分割する。

被告は原告と共同して前項の土地につき前項の分割方法に従い分筆登記手続をせよ。

別紙第二目録の一、記載の土地に対する原告の使用範囲を同目録の二、の(一)のとおり、被告の使用範囲を同目録の二、の(二)のとおり定める。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人及び同復代理人は、

一、原告及び被告が共有している別紙第一目録の一、記載の土地を同目録二、の分割方法のとおり原告所有分の三一二分の一二五に当る二五坪と被告所有分の三一二分の一八七に当る三七坪四合とに分割し、かつ被告は原告に対し右土地につき、右分割方法のとおりの分筆登記手続をせよ。

二、原告及び被告が共有している別紙第二目録の一、記載の換地予定地を同目記載の二、の原告主張の分割方法のとおり原告所有分二一坪四合四勺と被告所有分三二坪二合八勺とに分割する。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求め、その請求原因として、

原告と被告は、別紙第一目録の一、記載の土地(以下本件従前の土地という。)を共有しており、その持分の割合は原告が三一二分の一二五、被告が三一二分の一八七である。そして、右従前の土地に対しては仙台市長より特別都市計画法に基づく土地区画整理換地予定地として別紙第二目録の一、記載の土地(以下本件換地予定地という。)が指定され、すでにその使用が開始されているが、現在その換地予定地の上には第二目録の第三図<省略>中赤および青の斜線を施した部分にそれぞれ建物が存在し、そのうち赤斜線部分が原告所有、青斜線部分の内AFGニAの範囲内の建物は被告又は訴外岩淵清治の、その余の青斜線部分の建物は被告所有の建物である。そして、原告は同換地予定地のうち同第三図のイ・ロ・リ・ヌ・イの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分(以下単に図中の点を表す記号を列記した場合は右と同様その各点を順次直線で結んだ範囲内の部分を意味する。)を使用し、被告は同図のリ・ハ・ト・ヌ・リの部分を使用している。但し右原告使用部分のうち同図面のニ・ハ・リ・ヌ・ニの部分は通路になつているので原告ばかりでなく被告も時折使用している。このような使用状況は特に原告と被告との間で取り決めた結果ではないが、双方の各前所有者の当時からこのように使用して今日に及んだものである。ところが被告は最近右被告使用部分を越えて原告使用部分を越えて原告使用部分にまで勝手に建物を建築するなどして原告の使用を妨害するような行動に出ているので、原告は昭和三六年七月六日、被告に対し、本件共有土地の分割を請求したが、当事者間ではその協議が調わないので請求の趣旨のとおりの分割並びにその分割に基づく分筆登記手続を請求する。

と述べた。立証<省略>

被告訴訟代理人は、原告の請求に対する第一次の答弁として、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その理由として、

原告が本訴において分割を請求しているのは換地予定地であつて共有土地そのものではない。特別都市計画法に基づく換地予定地の指定がなされると、従前の土地の所有者はその換地予定地の上に従前の土地について有していた所有権による使用収益と同一の使用収益をなすことができるのであるが、所有権はまだ換地予定地の上に移つてはいない。従つて、所有権はあくまで従前の土地にあり、たゞその所有権には使用収益権が伴わないだけであるから、売買、譲渡、担保権の設定等一切の処分も従前の土地についてなされるべきである。共有物分割請求は共有者の有する一個の所有権の分割する場合にのみ認められるものであるから、所有権を有しない単なる換地予定地の分割は許されるべきではない。

と述べ、更に右主張に理由がない場合の第二次の答弁として、「本件換地予定地を別紙第二目録の三、の被告主張の分割方法のとおりに分割する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、原告の請求原因に対する答弁並びに被告の主張として、

一、原告主張事実のうち、原告と被告とが本件従前の土地を共有しその共有持分の割合が原告主張のとおりであること、右従前の土地に対して特別都市計画法に基づく換地予定地として本件換地予定地が指定され、すでにその使用が開始されていること、その換地予定地の上に原告主張のとおりの建物が存在し、そのうち第二目録第三図赤斜線部分の建物が原告の所有であること、青斜線部分の建物がAFGニAの範囲の建物を含めて被告の所有であることは認めるが、同換地予定地の原告と被告の各使用範囲に関する原告の主張は否認する。また、従前の土地の範囲が第一目録の図面のとおりであることも否認する。

二、原告は換地予定地の上には第二目録の第三図の赤斜線部分に建物を所有しているだけで、土地自体は右建物の敷地は別として、それ以外は実際に使用しているわけではなく、却つて被告の方で右原告所有の建物の敷地となつている部分を除き、本件換地予定地全部を使用しており、同図表示の青斜線を施した部分に従来から三棟の建物を所有している。

そもそも本件従前の土地につきこのような共有関係が成立するようになつたのは、右原告所有建物の前所有者が同建物を他に譲渡する際、同建物の敷地として最小限必要な範囲の土地を建物に付加して譲渡したからであり、その建物に付加された土地の共有持分が現在原告が有している共有持分なのであるから、本来その持分の範囲は同建物の敷地部分に限られるべきものであつたのである。また、換地処分がなされる場合、換地は従前の土地に比較してその二割五分程度減積されるのが普通であるのに、本件換地予定地の場合の減積率は右の割合を下回り、通常の換地よりも有利な面積の換地予定地を与えられ、実測五三坪七合二勺もの広い土地を得ることができたのは、もつぱら被告と隣地所有者である訴外松本又八の努力によるものである。従つて、本件土地の分割にあたつてはこの事情を考慮し、単純に持分の比率のみに基づいて分割範囲を決すべきではなく、被告の所有範囲は持分の比率によつて定まる範囲以上に与えられてしかるべきである。これらの事実に鑑みれば、原告主張の分割範囲は不当であり、被告主張のとおりに分割範囲を定めるのが相当である。

と述べた。立証<省略>

理由

本件従前の土地を原告と被告が共有していること、その持分の割合は原告が三一二分の一二五、被告が三一二分の一八七であること、右従前の土地に対する特別都市計画法に基づく換地予定地として本件換地予定地が指定され、すでにその使用が開始されていること、その換地予定地の上には第二目録第三図の赤および青斜線部分にそれぞれ建物が存在し、そのうち赤斜線部分の建物が原告の所有であり、青斜線部分の三棟の建物が被告の所有であることは当事者間に争がない。また、本件換地予定地の区画および地形が別紙第二目録の第一ないし第三図<省略>に示すとおりであることは被告において明らかに争つていないからこれを自白したものとみなす。

原告訴訟代理人は、従前の土地の区画及び地形が別紙第一目録の図面のとおりであると主張するのに対し、被告訴訟代理人はこれを否認するのであるが、被告訴訟代理人の方では従前の土地の区画および地形については何ら主張立証していないし、成立に争のたい甲第二号証(仙台市役所備付の公図写)の外記丁通四一番の三の地形区画は原告の主張と一致するので、他にこれを左右するに足る証拠はない以上、本件従前の土地の区画、地形は一応右公図のとおりであると推認すべきである。

ところで、被告訴訟代理人は換地予定地の分割は許されない旨主張するので、先ずこの点につき判断する。特別都市計画法第一三条、第一四条に基づく換地予定地指定処分がなされると、従前の土地の所有者は原則としてその通知を受けた日の翌日から換地処分が効力を生ずるに至るまでの間、従前の土地について使用収益をなすことを禁じられるとともに、換地予定地のうえに従前の土地について有していた使用収益権と同一の使用収益権を取得することになるものであるが、換地処分が確定的に効力を生じたときにはじめて換地が従前の土地とみなされ、従前の土地に対する所有権その他の権利が換地のうえに移行することになるのであるから、それまでの間はあくまで従前の土地が所有権の対象であつて、換地予定地に対しては所有権がないことは明らかである。すなわち、共有土地に対して換地予定地が指定された場合にもその換地予定地が共有物となるわけではないから、換地予定地そのものを分割することが許されないことは被告訴訟代理人の主張するとおりである。従つて、共有物分割の対象となるのも従前の土地であつて換地予定地ではない。しかし従前の土地が分割されても、それに伴つて当然に換地予定地が分割されることにはならないから、二個以上の土地に対して一個の換地予定地が指定されている状態を生じ、区画整理事業の施行者においてあらためて分割された各土地に対してそれぞれ換地予定地を指定しない限り、従前の土地の分割前と同様分割された土地の各所有者は従前の持分の割合に応じて一個の換地予定地の使用収益をなす状態が依然として継続する。そして、換地予定地使用開始後は実際の利用関係や取引関係はすべて換地予定地を中心にして行われているのであるから、右の状熊のまゝでは分割の目的は達せられないことになるから、従前の土地の分割の他に、換地予定地の上の使用範囲を分割することが是非とも必要であるといわなければならない。換地予定地そのものは共有物ではないことは前述のとおりであるが、従前の土地の共有者は持分の割合に応じて換地予定地を使用する権利を有するのであるから、その換地予定使用収益権についてみれば民法第二六四条の準共有関係が成立しているものということができる。従つて、共有物分割に関する規定も当然準用されることになるので、共有者の一人から請求があれば右使用収益権についても分割が行われなければならないわけであるがその分割はすなわち換地予定地を分割するのではなくして、その一個の換地予定地の上に各共有者の使用収益範囲を区分して定めるということにほかならない。結局、換地予定地の指定がなされた土地に対して共有物分割の請求がなされた場合には、従前の土地の分割と換地予定地の使用収益範囲の分割とが併せて行われるべきであり、原告の本訴請求もこの趣旨に解されるから、被告訴訟代理人の主張は採用できない。

そこで、次に分割方法を検討する。本件の場合従前の土地の範囲と地形は前述のとおり甲第二号証の公図の写に依拠する以外にはなく、現地はすでに区画整理工事が進行してその区画、形質に変更が加えられ、実際上本件従前の土地は外見的には存在しなくなつているものと考えられるので、現実には先ず換地予定地の使用範囲を分割し、その分割結果に対応して従前の土地を分割するのが妥当な方法であると考えられる。

本件換地予定地の区画地形が別紙第二目録の第一ないし第三図に示すとおりであることは前述したところであるが、その分割範囲を決定するにあたつては、原則として持分の割合に応じ、かつ、現に行われている使用収益の状況や隣接地との関係を考慮し、分割後の各範囲が位置的に、地形的に各所有者にとつて最も利用価値が高くなるような方法を考えるべきである。

被告訴訟代理人は、被告らの努力によつて本件換地予定地が通常の換地予定地の減積率より有利な面積を確保できたのであるから、この事情を考慮して、被告に対し与えられるべき分割範囲は、持分の割合によつて決められる範囲より多く定められるべきであると主張し、成立に争のない乙第四号証と証人松本美喜子の証言によれば本件換地予定地の区画整理の際若干の余剰地が生じたのを、被告と隣接他の所有者である訴外松本又八とが話し合つて市当局と交渉した結果その一部を本件換地予定地に組み入れたという事実が認められるけれども、その事実があるからといつてその余剰地による増加分を当然被告所有分とすべき理由はないから、特に持分の割合以上の範囲を被告所有分と定める必要を認めない。

そこで次に本件換地予定地に対する原告及び被告の使用状況についてみると、同換地予定地上には別紙第二目録の第三図に示すとおりの青および赤斜線部分に合計四棟の建物が存在し、そのうち赤斜線部分の建物(以下原告所有建物という。)を原告が所有使用し、青斜線部分の三棟の建物を被告が所有していることは当事者間に争がない。そして、成立に争のない甲第一号証、乙第一及び第二号証証人菅原力夫の証言並びに原告本人尋問の結果によれば、本件従前の土地はもと訴外菅原力夫の所有であつたところ、昭和二六年頃同人が同地上に所有していた原告所有建物(但し、その当時は現在位置ではなく、従前の土地の北側の部分にあつた。)を担保として訴外佐勝昭七より金借するために同人に対し同建物を譲渡担保として提供したがその際同建物とともにその建物の使用に必要な範囲の敷地も譲渡することとし、現在原告所有となつている三一二分の一二五の持分を同人に譲渡したこと、その後昭和二九年二月五日に右佐藤は右建物と土地の共有持分を原告に売渡し、また残りの持分は同月一〇日に菅原から被告に売渡されて現在の原告及び被告の共有関係が成立するに至つたことが認められる。被告訴訟代理人は、右のような共有関係成立の事情を指摘し、右のような持分の割合は特に意味をもつものではなく、原告所有建物の敷地とその利用に最小限必要な範囲の持分を分離して譲渡したにすぎないから原告取得分もその範囲に限られるべきであると主張するがむしろ証人菅原力夫の証言によれば、現に原告に帰属している三一二分の一二五の持分がすなわち右建物の利用に必要な範囲と考えられて、これが建物に付加して訴外佐藤に譲渡されたものと認むべきであり、その持分の割合が無意味であるという主張はにわかに首肯できないし、原告が現にその三一二分の一二五の持分を有していることは前述のとおり当事者間に争がない以上、分割範囲の割合は右持分の割合によるべきである。

そして、前述のとおり当事者間に争がない本件換地予定地の地形区画、その上に存する建物の位置などの事実、成立に争のない甲第二号証と乙第三号証、原告および被告各本人尋問の結果、鑑定人石川義博の鑑定の結果ならびに弁論の全趣旨によつて認められる原告および被告の本件換地予定地に対する使用状況、隣接地殊に公道である北二番丁通との位置関係を考慮し、共有持分の割合に応じ、かつ共有者双方の利害を調整して本件換地予定地を分割するとすれば別紙第二目録第一図に示すようにホ・ヘの各点を結ぶ直線を分割線としその東側を原告、西側を被告の各使用範囲とすることすなわち原告主張のとおりの分割方法に従うことが最も妥当な方法と認められる。この場合被告所有の建物のうち第二目録第三図のA・F・G・ニの建物が原告の使用範囲に包含されることになるけれども、それは被告が自己の持分の割合による範囲を越えた使用をなしていたためであるから右のような分割の結果になることも止むを得ないところであり、被告において受忍すべきものである。

本件換地予定地の使用範囲を右のとおりに分割するとすれば、その各分割範囲の区画および地形に対応し、かつ共有持分の割合によつて本件従前の土地を別紙第一目録の二、の分割方法に記載したとおりに分割し、かつその分割結果に従い本件従前の土地の分筆登記手続をなすべきである。

以上の理由により、主文第一項のとおり本件従前の土地を分割するとともに、被告に対しその分割結果に従い主文第二項のとおり、分筆登記手続をなすべきことを命じ、かつ主文第三項のとおり本件換地予定地に対する原告および被告の各使用範囲を定めることとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法弟八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋史朗)

別紙

第一目録

一、仙台市外記丁通四一番の三

宅地 六二坪四合

(左図い・ろ・は・に・いの各点を順次直線で結んだ範囲)

二、分割方法

(一) 原告所有分 右土地の三一二分の一二五に相当する左図赤斜線部分二五坪(左図い・ほ・へ・に・いの各点を順次直線で結んだ範囲)

(二) 被告所有 同土地の三一二分の一八七に相当する左図赤斜線部分以外の三七坪四合(左図ほ・ろ・は・へ・ほの各点を順次直線で結んだ範囲)

図<省略>

第二目録

一、仙台市外記丁通四一番の三宅地六二坪四合の換地予定地である従前の同市外記丁通四一番の三、四一番の四の一部第四ブロツク第四一号(実測五三坪七合二勺。左記第一ないし第三図のイ・ロ・ハ・ト・イの各点を順次直線で結んだ範囲)。

二、原告主張の分割方法

(一) 原告取得分 右土地の三一二分の一二五に相当する左記第一図のイ・ロ・ホ・ヘ・イの各点を順次直線で結んだ範囲(同図赤斜線部分)二一坪四合四勺。

(二) 被告取得分 右土地の三一二分の一八七に相当する同図のヘ・ホ・ハ・ト・ヘの各点を順次直線で結んだ範囲三二坪二合八勺。

三、被告主張の分割方法

(一) 原告取得分 左記第二図のH・ロ・Y・チ・Hの各点を順次直線で結んだ範囲(同図赤斜線部分)。

(二) 被告取得分 同図H・チ・Y・ハ・ト・イ・Hの各点を順次直線で結んだ範囲。

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